アユが死んだ日
一昨日から再び、産卵のために上流から下流へとくだる落ちアユの調査に来ています。
アユは一生を一年で終わらせる年魚。 次の世代へ命をつなごうとする最期の輝きを取材するためです。
しかし今年は、10月末に台風21号、22号が連続して襲来。
アユたちが産卵場を目指して一斉に降りてくる時期と重なってしまったため、いまだに集団産卵を見ることはできていません。
例年なら、産卵はそろそろ終わりかけのタイミング。
アユは水深の浅い「瀬」と呼ばれる場所で産卵を行います。
試しに小石をめくってみると・・・
石の先に1mmくらいのタピオカのような透明な球体がいくつか付いているのがわかります。
これがアユの卵です。
集団では産卵はしておらず、数は少ないものの、なんとか産卵は行われているようですね。
台風の増水時にアユは海まで一気に流されて死んでしまったのか、水温が高くタイミングが合わないのか、集団産卵が起きない要因はいくつか考えられますが、こんな現象は初めてです。
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アユが死んだ日
そんなある日、信じられない出来事が起こりました。
上の写真、ここがどこだかかわかりますか?
実はここ、下流の河原なんです。しかも産卵場の目の前の下流。
台風の増水により、上流から運ばれてきた砂利などが河原に堆積物してしまったため、採掘して元の高さに戻そうとする作業のようです。
溜まりすぎると、同じような大水が出たとき、土砂が海近くへと運ばれ河口閉塞を起こしてしまう恐れがあるため、採取していると思うのですが、何故この時期に。。。
恐る恐るアユの産卵場の様子を見にいきます。
河原の石だけを取り除く工事だと聞いているので、川は恐らく無傷で残っていると思うのですが、、、。
近くにつれ、その不安は絶望と強い喪失感に変わりました。
無残に掘り起こされた川底の石。
そこにはもう、2週間前まであったアユの産卵場はありませんでした。
そこにあったのは、まるで水路を作るように整えられ、変わり果てた川の姿。
アユはもちろん、魚類や水生昆虫などの姿も何もなく、ただ水が流れているだけ。
子供が砂場を掘って水が流れる道を作ったものと何一つ変わりはありません。
小石に産み付けられた何十万匹というアユの命が奪われました。
アユが一生をかけて、残した卵が全て殺されました。
虐殺です。こんなことが許されてもいいのでしょうか。
悲しいことに川の透明度だけは変わりません。
きっと工事を発注した県も、掘り起こした担当者も、綺麗な川を残すための作業として一生懸命仕事をしてくれたのでしょう。 ただそこにある命の営みを知らなかっただけ。
「川は生き物たちが暮らす場所」としての認識はなく、あったとしてもせいぜい「森と海をつなぐ水」、くらいの認識だったということでしょう。
水さえ流れていれば問題ないだろうと。綺麗な水じゃないかと。
そこに暮らす生き物のことなど微塵も考えずに。もちろんアユの産卵のことなど気にも留めず。
せめて冬からにできれば助かる命も多かったのに。。。 今年は壊滅的ですからね。
子供達の環境教育で「川を守ろう」「川の生き物を大切に」と説明して来たことは何だったのでしょうか?
理想をうたっていることと、やっていることのギャップが余りにもかけ離れてしまい過ぎている。
そうではないと信じたいです。どこかボタンの掛け違えが起こってしまったのだと。
奪ったものの価値は何十億円
しかしながら、壊すのは一瞬。でも、それを元の状態に戻すには何十年と時間がかかる。
何百億と税金をかけても、自然は買えません。調査を行っている川のような悠久の歴史を刻む自然が残っていることが何よりの財産だったのに、それを一瞬で失ってしまった。
町は、県は、日本は、むしろ世界にとっても、この損失は計り知れないことと思います。
アユは母川回帰の無い魚。近くの河川で生まれたアユが来年の春にはこの川にも遡上してくるでしょう。
そのため、地元の方々もアユが減ったことに気づかず、今年もアユが来た、工事の影響はなかったんだと勘違いしてしまうのだと思います。
今年、この川のアユはほとんど全滅したという現実。
これと真正面から向き合う必要があります。
もしこの現実から目を背け、来年以降も人為的に産卵場を壊し続けるようなら、近い将来、川からアユはいなくなるでしょうね。
川の生態系で重要な役割を果たすアユが少なくなれば、ピラミッドごと崩壊します。
川を守るとは何なのか、口先ではなく心で考える、本質を理解する。
嫌なことは水に流すでは、もはや済まされないところまで来てしまっています。