自然信仰の世界遺産「宮島」 【霊峰・弥山】編
島全体が御神体であるという自然信仰が根づいている世界遺産「宮島」。前回のレポートはこちら。
今回は、霊峰として知られる標高535mの「弥山(みせん)」に登ってみたいと思います。
その大部分は、ツガやモミなどの針葉樹に加え南方系の植物が混在し千数百種類が生い茂るという弥山原始林となっており、国の天然記念物にも指定されています。
初代総理大臣である伊藤博文はこの山に惚れこみ「日本三景一の真価は弥山の頂上からの眺めにあり」と称したといいます。
真価とは何か、その言葉の奥に込めたメッセージを私は少しでも感じとりたい。
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霊峰・弥山の頂へ
弥山山頂を目指す道は「紅葉谷登山道」「大聖院登山道」「大元登山道」の大きく3種類があります。
体力に自信のないかたはロープウェーという選択肢もあるのですが、私は徒歩で一歩一歩思いを汲み取りながら山頂へ向かいたいと思います。
数ある道の中から、今回私が選んだのは「大聖院(だいしょういん)登山道」。
出発地点の大聖院は、弘法大師(空海)が開いたとされる宮島最古の寺院です。
宮島は神道と仏教が調和しており、明治政府による神仏分離令が行われるまで大聖院は厳島神社の別当職として祭祀を司ってきたという歴史もあります。
厳島神社が「動」なら、こちらは「静」。参拝者の年齢層も高く、厳かな雰囲気が広がっていました。
大聖院にとって弥山は特別な存在。奥の院という重要な役割を担っているそうです。
大聖院登山道は麓にある大聖院から山頂近くの奥の院に至る祈りの道として利用されてきました。
急峻な峠道には、たくさんの「応援団」が
弥山の頂上を目指す2.8キロの峠道。海抜0mから標高535mまで急峻な石段が延々と続きます。
1906年、弥山信仰に厚かった伊藤博文によって改修された参詣道。石段の数は2000段以上とも言われています。
比較的体力がある方の私でさえ、息がかなり上がるほど険しい。。。
今回、山用の装備は一切持たず普段着で登っているのでしんどさは倍増。
しかも、私物のノートパソコンが入った肩掛けバッグまで持参してしまった為に肩や腰への負担が尋常ではない。
石段を一歩登るたびグイグイ肩を圧迫してきます。もし皆さんがいつか登る機会があれば、身軽な山登りに適した装備が望ましいと思います。。。
そんな私を応援してくれるのが、道沿いに佇むお地蔵さんたち。
中には、今自分がどのくらいの位置にいるのかを教えてくれる町石代わりのお地蔵さんもいたりと、非常に助かります。
以前、熊野古道の伊勢路を踏破したことがあるのですが、その道中でもこうしたお地蔵さんたちにどれだけ励ましてもらったことか。
頑張れよーと声をかけてくれるようで本当に嬉しい。
一体一体に、ここまで歩かせてくれてありがとう。もう少し歩かせて下さいと祈り、感謝を捧げながら登ります。
こうして見守ってくれるのは心強いですよ。有難い。ありがとう。
登山道の周りに広がる国の天然記念物「弥山原始林」。
緑といっても淡いものから濃い色まで様々な色域がある。これが本来の自然の姿ですよ。
その中にはもちろん朽ちた木々もある。
倒木更新という言葉がある通り、生を終えた木は自らが養分となり次の命を育む糧となる。
それがその場所で1万年以上も絶え間なく繰り返されてきた植物や動物たちによる命の循環。
こうした様々な植物の「気」のようなものが辺り一面に満ち満ちているようにも思えました。
応援してくれているのはお地蔵さんだけではない。こうした木々もまた頂上へと私をいざなってくれているような気がします。
白糸の滝や清らかな小川など、心を癒してくれる景観も数多くあり、しんどいながらも楽しみながら歩みを進めることができました。
自然の力を畏怖する一面も
中腹を過ぎたあたりで、登山道の一部分が新しく整備された場所がありました。
平成17年に襲来した台風14号の土石流によって歩道が流失。数年かけて復旧させたようです。
全島花崗岩で形成されている宮島。
花崗岩が風化した真砂土(まさど)は粒子が大きく、崩れやすい性質も。
こうした荒ぶる姿もまた自然本来の姿。日々自然の恵みに感謝し、時に畏怖の念を抱きながら向き合ってきたことでしょう。
崩れた登山道のすぐ脇には延命地蔵が。2m先で起きた土砂崩れから免れるとは、さすが延命。。。 ご利益にあらかろうと入念にお祈りさせていただきました。
ゆっくりとしたペースで進んだため、麓から1時間30分で頂上付近の「奥の院」へと到着。
私以外は誰もいなかったため、ここはまた一段と怖いくらいに静かな空間。
周りの原生林からは倒木更新による生と死、植物たちによる再生のエネルギーが、らせんを描くように弥山頂上へ向けてかけ上がっていくようなイメージ。
パワースポットと軽く呼ぶには恐れ多いほど、ひしひしと肌で感じます。。。
大正2年に弥山原始林を研究した植物学の世界的権威であるアドルフ・エングラー博士は「私はできることなら一生ここに住んで、ここで死にたい」とまで激賞したそうですが、もしかすると博士もこうした「気」を感じ取っていたのかもしれませんね。
次回は目的地の「弥山の山頂、神の頂」へとたどり着きます。
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