未来日記〜ある少年との出会い〜
いつも通り、畑の見回りをしている時のこと。
「あの、、、いつも何をやっているんですか?」
声のする方に振り返ると、頭を丸刈りにした男子中学生が少し怯えるような表情で立っていた。
「1年の時から毎日ここを通っているんですけど、田んぼだった場所がどんどん変わってきて、なんか果樹みたいなのもいっぱい育ってるし。もうちょっとで卒業やから、一度聞いて見たかったんです」
きっと勇気を振り絞って話しかけてきてくれたのだろう。ギュッと握りしめた拳から、彼の意思を感じる。
「これは協生農法を実践してる畑なんよ。」
「きょーせー?」
「協力して生きる農法。雑草、虫、鳥、土の中の微生物、みんなの力を借りることで野菜が無肥料無農薬で活き活き成長するんよ。」
「え?樹があるのは分かるけど、野菜なんてどこにあるの???」
「見てみ。これ全部野菜。」
「そのグジャってなってるとこ全部野菜なん?!?」
「ここだけでもサンチュ、ニンジン、ルッコラ、タマネギ、ダイコン、スナップエンドウ、チンゲンサイ、ワイルドストロベリーなど8種類以上が密生してる。こっちきて食べてみるかい?」
「え?そのまま食べていいんですか?」
「天然野菜は生食が基本よ!」
私に勧められたサンチュを恐る恐る口に運ぶ中学生。一気に顔色が変わる。
「甘ぁ!!!何これ、こんな野菜食べたことない!めっちゃ味濃いやん!!」
「そやろ、他にもほうれん草、シマラッキョ、二十日大根なんかもあるで」
強張っていた表情は緩み、一心不乱に食べ続ける彼。協生野菜の魅力に心奪われたように思える。
<スポンサーリンク>
そこから青空協生農法講習会を開始。
何故畑に果樹を植えているのか。
土を耕さない理由。
自然と不自然の境界線について。
話す私をキラキラと輝く目で見つめる彼。食べたあとなら、すんなり理論が頭に入ってくるようだ。
常識に囚われない中学生は理解が早い。
「おっちゃん、明日友達を連れて来てもいい?ニンジン嫌いな奴がおんねん。」
「おう、いくらでも来てええで。」
翌日、不機嫌そうな顔の友人を連れた彼が畑にやってきた。めちゃくちゃ美味しい野菜があると言っているのに絶対に嘘だと信じてもらえないそうだ。
「早く帰りたい。おっちゃんと話してる所を見られたくないから。」
どうやら中学生達の間では私は「変わり者」として認識されているらしく、声をかけてはいけないというルールまであるのだという。
確かに、何か呪術的な儀式に間違われてもしょうがない畑ではあるなと笑いが込み上げる。
渋々ニンジンを引き抜く友人。
「小さいな!これホンマに食べれる奴なん!?」
「ごちゃごちゃ言わんと目つぶって食べ!」
カリッ
ゴリゴリッ
「おっちゃん…これニンジン?柿みたいな味するんやけど。。。」
「姿はちっちゃいけど、ギュギュギュっと生命力が詰まってるんよ。」
本来のニンジンの味に大満足の友人。
このニンジンがこぼれ種から自然に成長したものだと話すと、さらに目を丸くして驚いていた。
「おっちゃん、このダイコンも抜いて食べていい?」
友人が美味しそうにニンジンを食べる様子を見て我慢できなくなったらしい。
「あれ?そっちのダイコンはめっちゃ長いやん!」
「おっちゃんの畑は粘土質やから、高畝にしてるとこやったら根を下に伸ばせるみたいや」
去年まで冬野菜は一切育たなかった私の畑。高畝にしたところでは水菜や小松菜もブッシュになっている。
2年目の大発見。少年たちに出会う前に気づいて本当によかった。。。
「春になったらスナップエンドウも山ほど取れる。これも種取りした野菜。環境が整えば野菜は自分で育ってくれるし、種は買う必要ないようになる」
「・・・全然手をかける必要ないやん。」
「・・・自然てすごいな」
自然ってすごいな。
富士山の頂上で浴びた御来光。
きらめく大海原に広がる水平線。
澄み渡る清流で見た淡水魚たちの命の輝き。
そうしたシーンに出会うたび、私も同じ言葉を呟いてきた。
彼らはこの畑に「自然」を感じてくれたのだ。
野山のような畑を目指す挑戦。私は確かな手ごたえを感じた。
。
。。
。。。
と、そんな日がいつか訪れるのではと淡い期待を抱きながら登校時間に畑の見回りをしておりますが、、、
今日もサッと目をそらされて終了でしたよ(泣)
まぁ、夢のような出会いなどそうそう起こることではございませんね。
しかしながら、野菜の成長具合は妄想ではないので悪しからず!
<スポンサーリンク>