持続可能な社会のヒント「固定種とF1種」
先日、待ち望んでいたある商品が届きました。それがこちら。
「固定種」という野菜の種です。
「野口種苗研究所」さんという埼玉県で3代続く種屋さんから、インターネット通販で購入しました。野口さんのお店では全国各地で作られている伝統野菜など、固定種の種だけを専門に取り扱っています。
袋には野菜の育て方だけでなく「種の収穫方法」も細かく明記してあります。
このように野口さんは種屋にも関わらず、自分の畑で種取りを行う「自家採種」を勧めているという珍しいお店なんです。
実は現在、ホームセンターやスーパーなどで売られている種の多くは「F1種」という種。
固定種に比べ、生育も早く収量も多いF1種。そのため生産農家にとっては夢のような種といわれています。
でもメリットの中には、やっぱりデメリットも存在する。今日はそんなお話です。
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固定種って何?
野菜の種には大きく分けて「固定種(在来種)」と「F1種(一代交配種)」の2種類があります。(遺伝子組み換野菜の分類は今回除きます)
固定種とは…
固定種とは、その年に畑で一番よく実った野菜を選んで種を採り、翌年その種を蒔いて育てた中からまた一番よいものを選んで種を採り、といったことを何代も繰り返しながら品質の高さを固定してきた在来野菜の種のこと。
種には育った環境を記憶する力があり、自家採種を繰り返すことで、それぞれの気候風土に合った強い品種に変わっていきます。
長い年月をかけて三重なら三重、京都なら京都とその土地土地に適応して根づいてきた野菜ですから、その土地ならではの特徴ある野菜に育つというわけです。
京野菜や金沢野菜と呼ばれる個性を持った伝統野菜がこれに当たります。
こういうと、ものすごーく大層な種のように思えますが、そうではなく昭和30年代まではどこの家庭でも当たり前のように行ってきた、むしろ“一般的だった”もの。
しかし、同じ品種でも野菜の大きさや重さがまちまちに育つため、八百屋などお店で売る際は秤にかけて量り売りをする、産直場で売るなど工夫が必要で大量流通に向きません。
市場出荷には向かないけれど、野菜の味が濃く、収獲期間が長いことから家庭菜園で楽しむにはピッタリというのが固定種です。
F1種とは…
昭和40年代から新しく台頭してきたのが「F1種」。異なる性質の親同士を人為的に掛け合わせて作った雑種です。そのため一代雑種、交配種と表記されることもあります。
今、ホームセンターで売っている野菜の種のほとんどは、このF1種と呼ばれる一代限りの雑種です。
商品の包装袋に「××交配」と印刷されています。これがF1種です。
遠縁の系統を掛け合わせて作られた雑種は、もとの両親より生育が早くなったり、実が大きくなったり。収量が多くなったりすることがあり、この現象を「雑種強勢」といいます。
これにより生育期間が飛躍的に短くなり、生産量も向上。さらに、蒔いた種が全て同時期に収穫期を迎えるという農業の工業化。画期的で革命的なことでした。
農家にとって栽培しやすく、流通・販売業者にとっても都合が良く品種改良されています。
しかし、F1種の効力はその一代限り。この雑種から種を取っても子孫ができにくく、仮に出来たとしても2代目以降は親と同じような形の揃った野菜には育ちません。
一代目の時だけに特化するよう品種改良が行われているというわけです。そのため農家は毎年種を買わなくてはなりません。
さらに「雄性不稔」という花粉のできない個体を使って作られたF1種は、次の世代に種を残すことさえできません。。。人為的に子どもを作れなくしてしまった野菜を食べ続けて、人体に本当に異常が出て来ないのかなと、疑い始めるとちょっと怖くなる点も。まぁ、これはさすがに考えすぎでしょうけどね。。。
特徴をまとめると
固定種のメリット
- 代々1番良い野菜の種だけを選りすぐってきたので、味の濃い野菜本来の味わいが楽しめる。
- 生育期間がまちまちなため。長期間栽培が楽しめる。
- 自家採取が可能なので、種を買わずに循環型の持続可能な農業ができる。
固定種のデメリット
- 形や大きさが安定しないため、流通にのせにくい。
- 旬の時期にしか収穫ができない。(ハウス栽培は除く)
F1種のメリット
- 一代目の時だけは形や大きさ、収穫時期が揃うため、大量生産・大量消費にピッタリ!
- 耐病性の品種改良が行われているため、特定の病気を避けやすい。
F1種のデメリット
- 二代目以降は形も大きさも不揃いになってしまう場合が多い。
- 毎年種を買わなくてはいけない。
- 雄性不稔のF1種には花粉が無く、種を作ることができない。
このように、どちらにもメリットとデメリットがあります。
市場経済の観点から見れば、効率よく大量に作れるF1種の野菜は文句なしの優等生!そのため現在、スーパーに出回っている野菜のほぼ100%がF1種野菜です。
逆に家庭菜園の観点から見た場合、蒔いた種が全て同時に収穫期を迎えるということは、一度に採りきらないとどんどん野菜が固くなり美味しくなくなるという問題も。
その点、固定種は個体差があるため、生育速度もまちまち。早く大きく育った野菜から収穫していくと長期間栽培が楽しめます。
他にも、F1種は生育期間が短くなった結果、細胞の密度が荒くなり大味になったり、葉緑体による光合成の期間も短いので、ビタミンCなどの栄養価が少なくなってしまうということもあるそうです。
よく「昔の野菜は今より美味しかった」とか、「昔に比べ年々野菜の栄養が少なくなっている」など言われていますが、固定種からF1種に変わり生育期間が短くなったことも原因のひとつなんじゃないかなと思います。
新しいチャレンジ
この秋以降、ドングリ農園では、これまで先輩方が種を採りつないできた固定種の野菜に切り替えて栽培していきたいと思います。というよりも私も種取りに挑戦したい!
栽培初年度はうまく育たないものが多くても、栽培した中で一番よくできた野菜から自家採種し、その種を翌年まくと、種がその土地の情報を記録していく。年を重ねるごとにドンドンその土地に適応していくので。無農薬や無肥料などの協生農法、自然栽培にも向いていると言われています。
3年続ければ、その土地に合った野菜が出来るそうなので、それを楽しみに気長にノンビリと種取りライフを行って行きたいと思います。
種は自分が亡くなったあとも、家族の手によって採り次がれ、子孫の体の一部になるかもしれない。そうなったら野菜も家族の一員みたいなものですよね。
本当に持続可能な社会のヒントが、ここにもあるような気がします。
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